タイの宗教・文化・タブーを知る

タイに住み始めて最初に驚いたのは、街のいたるところに仏像や祠があって、通りすがりのタイ人がそこで手を合わせていることでした。日本でも仏教は身近ですが、こういう光景はあまり見かけない。「タイ人にとって宗教はもっと日常に近いものなんだ」と肌で感じた瞬間でした。
移住して15年、タイの文化に触れれば触れるほど、この国がどんどん好きになっています。知らないとトラブルになることもありますが、理解すればするほどタイ人との距離が縮まる。旅行者にも移住者にも、ぜひ知っておいてほしいことをまとめました。
仏教はタイ人の生活そのもの
タイは国民の約95%が上座部仏教(テーラワーダ仏教)を信仰しています。日本でなじみ深い大乗仏教とは異なり、釈迦の教えをより原始に近い形で受け継いでいるのが特徴です。
タイ仏教の特徴をひとことで言うなら、宗教が「信仰するもの」ではなく「暮らしそのもの」だということです。全国に約4万以上の寺院があり、男性は一生に一度出家するのが慣習とされています。
幼少期から仏教の価値観の中で育ったタイ人にとって、信仰はアイデンティティの一部です。近年は若い世代を中心に出家しない人も増えてきていますが、それでも仏教がこの国の根幹にあることは変わりません。 僕がタイで会社員として働いていた頃、同僚のタイ人男性が出家のために約3か月休職したことがあり、「出家で3か月も休むのか!」とカルチャーショックを受けたことを覚えています。
タンブン。タイ人が徳を積む理由
タイ人を理解するうえで、これを知らないと始まらないという概念があります。「タンブン」です。
タンブンとは「功徳を積む・善行を行う」こと。背景にあるのは輪廻転生とカルマ(業)の思想で、現世での行いが来世の運命を決めるという考え方です。だからより良い来世のために、現世で徳を積む。しかもその功徳は自分だけでなく、家族や祖先にまで伝わると考えられています。タンブンは自分のためであり、大切な人への贈り物でもあるわけです。
タンブンの形はいろいろあります。朝の托鉢への施し、寺院への寄進、貧しい人への施し、鳥や魚などの生き物を自然に逃がすこと、見知らぬ人への親切。
これらすべてがタンブンです。タイ人が見知らぬ外国人にも気前よく接してくれることがあるのは、こうした精神が染み込んでいるからかもしれないですよね。日本の「情けは人のためならず」に近い感覚です。
僕自身も、15年暮らすうちにいつの間にかタンブンの習慣がつき、月に一度はお寺に行くようになっています。忙しかったり悩んでいたりするとき、お堂で軽く瞑想するだけで頭がすっきりするんです。
僧侶(プラ)に関するマナー
タイ社会で最も尊敬される存在が僧侶です。BTSやMRTには僧侶専用席があり、乗客は当然のように席を譲ります。
女性は僧侶に触れてはいけません。何かを渡す際もトレーや布を介するのがルールです。観光気分で気軽に話しかけたり写真を撮ったりするのも、あまり歓迎されません。
バンコクで早朝の托鉢(タクバート)を見るなら、MRTサムヨート駅から歩いて10分ほどのトロックモー朝市がおすすめ。僕もよく写真を撮りに行く場所で、朝市の活気と托鉢の光景は本当に美しいんです。
ただし托鉢は神聖な儀式です。撮影するなら節度を保って、托鉢の邪魔をしたり、僧侶の目の前で撮影したりするのはやめましょう。
寺院参拝のマナー
女性が寺院を訪れるときは肌の露出に注意してください。肩や膝が出る服装では入場できません。入口で巻きスカートや上着を貸してくれる寺院も多いので、事前に準備がなくても対応できることがほとんどです。
特に注意してほしいのが、日本人観光客に人気の寺院ワット・パクナム。極彩色の天井画がインスタ映えするとSNSでよく見かけますが、あの天井画がある仏塔の内部は神聖な礼拝の場です。
仏塔に足を向けたり、テンションが上がって騒いだりするのは厳禁。
思わず声を上げたくなるほど美しい空間であることは確かですが、観光スポットである前に信仰の場であることを忘れないでほしいと思います。
王室への敬意
タイは立憲君主制の国で、国王は国民の精神的支柱です。日本の天皇陛下への敬意とは少し次元が異なり、王室への敬意はこの国では法律上の義務でもあります。
タイの不敬罪は世界でも最も厳しい水準のひとつ。外国人でも適用され、最大15年の禁錮刑が科せられます。王室・国王・王族を批判・侮辱する発言や投稿は、SNS上のものも含めて絶対にNGです。
「冗談のつもりだった」
「日本語で書いたから大丈夫だと思った」
こういう言い訳は通用しません。過去には在住日本人がブログで王室批判をし、国外退去処分になったケースもあります。
映画館では上映前に国王賛歌が流れます。近年はタイ人の若い世代でも起立しない人が増えてきていますが、外国人である我々はマナーを守って起立したほうがいいでしょう。
微笑みの文化と「サヌック」の精神
タイ人の笑顔の意味
タイ人はよく笑います。移住したばかりの頃、「タイ人はいつも機嫌がいいな」と思っていたのですが、少し付き合いが深くなると、それが単純な話じゃないとわかってきます。
辛いときも、困っているときも、怒っているときでさえ、タイ人は笑顔を見せます。つまり笑顔イコール「大丈夫・了解」ではありません。
僕が移住した2011年は、タイを未曾有の大洪水が襲った年でした。家が浸水し、深刻な被害が発生している中で、冠水した道路で笑顔で泳いだり、スワンボートを漕いだりしている光景をニュースで見て、カルチャーショックを受けました。日本で同じことをやったら、「不謹慎だ!」と炎上すること間違いないでしょう。
おおらかというか、「辛いときこそ、笑い飛ばそう!」というタイ人の心意気を感じました、昔からこうやって数々の国難を笑い飛ばしてきたのでしょう。 あと、タイ人は感情を激しく表に出すことを嫌います。公の場で怒鳴ったり声を荒げたりするのは厳禁です。何かトラブルがあっても怒りをあらわにするのは逆効果で、穏やかに冷静に話すほうがはるかに物事が動きます。これは15年暮らしてきた実感でもあります。
サヌック(楽しむ)の精神
もうひとつ、タイ人を理解するうえで外せないのが「サヌック」という価値観。「楽しい・楽しむ」という意味で、タイ人の行動原理の根底にある考え方です。
仕事でも日常でも、「楽しくなければやる意味がない」というのがタイ人の感覚です。日本の「苦労してこそ価値がある」という考えとはかなり違います。
これを知らずにタイ人スタッフと働くと、ちぐはぐなことになりがちです。効率や成果だけを求めても、なかなかモチベーションが上がらない。仕事の中に楽しさや笑いを作れるかどうかが、タイ式のマネジメントでは大事になってきます。
まとめ
王室、仏教、家族。この3つへの敬意がタイ社会の根幹にあります。それさえ押さえておけば、大きく外すことはありません。 タンブンも、王室への敬意も、笑顔の文化も、それぞれに深い理由があります。その「なぜ」を知ることが、タイ人との距離を縮める一番の近道だと思います。
筆者紹介
明石直哉
2011年からバンコク在住。2015年に起業し、現在は会社経営と写真家という二足のわらじで活動中です。 このブログではタイ移住を検討している方に向けて、在住10年の経験を活かした情報を発信していきます。
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